403人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
「で?この前あれからどうしたんだよ?」
今までの会話をまるでなかった事にしてそんな風に切り出してきた同僚。
「あれからって?」
わかっているくせにわざと聞く私。
こんな風に聞くなんて私も随分と底意地の悪い。
「だから、あれだよ、取引先の…」
「あぁ、あのあとね?」
わざともったいつけるようにやっと思い出したという感じで続ける。
だってわかってしまった。
彼とはそういう関係になったにもかかわらず。
夢のような時間だったと自分では思っていたにもかかわらず。
私は彼そのものなんて全く見ていなかった事。
彼が最後に言った一言で気付かせてくれた。
「別に。」
「別にってなんだよ?そんなの答えになてないだろ?」
別に。なんだと問う彼のきき方は正解で。
私が言う別に。で、終わらせた言葉は正しくはないとわかってる。
苛立つ彼を見ながらもう一度言う。
「別に何ともないよ」
何ともない。
何もないとは言わない。
何もなくはないから。
最初のコメントを投稿しよう!