味覚のキオク

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彼女とは最初から遠距離だった。 遠距離だとわかっていた上で付き合い始めた。 知り合った頃は同じ街に住んでいたにも拘らず、離れてから付き合い始めたのだ。 まさかこんなにも自分が人に対して執着を持つとは思ってもみなかった。 彼女の楽しそうな話しを聞きながら、彼女の姿を浮かべる。 微笑んでいる彼女 困ったような顔をしている彼女。 ―――そして肌を赤く染めて羞恥に震えている姿。 最初は彼女を手に入れるつもりはなかった。 この街からもうすぐ離れる事がわかっていたから、誰とも個人的な付き合いをするつもりなどなかった。 彼女のことは部下として、いい子だとは思った。 上司として自分に憧れを抱いているのもわかっていた。 だからこそ、手出しするわけにはいかない。 もうすぐ自分はこの場から居なくなるのだから ギリギリ上司としても仮面も被ったままでいられた。 それなのにうっかり彼女に手を差し伸べてしまった。 彼女を見ているとつい、そんな衝動にかられる。 けれど、その気持ちは保護者的なそんなものだと思っていた。
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