第一章

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気がつけば、社会人になってから丸5年、6度目の春を迎えていた。 厳しい就職戦線をくぐり抜け、今こうして居られるのは、決して運があったわけではなく、古臭い言葉を引用すれば血と汗の結晶で為っている結果だと思っている。 なーんて、こんな事を考えるところが後輩達に堅いとか、オヤジクサいと言われる要因?かもしれない。 でも、運が無いのは本当なんだから仕方ないけど。 27の若い女に対してオヤジクサいは無いでしょと思うけど、たった3歳くらいの差がついただけで、こうも違うんだと思い知らされる毎日。 更に5年後には、いったいどうなっているのか・・・と考えても答えは出ない。 そんな先の事を考える前に今の自分をどうにかしないとマズイ気がする。 中西葵、27歳。当たり前だけど今度の誕生日で否応なしに28歳になる。 「中西、何ぼんやりしてるの?」 あっ、ここにもいた。 若いのに私の上をいくオッサン化した女子が。 「お昼食べたら、眠くなった。」 「アンタはいっつも同じこと言ってる。」 「だって本当なんだもん。」 「はい、はい。わかった、わかった。 それより、会議の資料出来てる?私、まだなんだよね。」 「田上にしては珍しいじゃん。 そんなあなたと違って私は完璧ですよ。」 このオヤジ女子こと、田上桃子は同期でもあり今では良き理解者のひとり。毒を吐きつつ、何かと世話をやいてくれる。 「ねぇ、今夜の飲み会わかってるよね?」 「うん、一応参加する。」 「参加って、そんな他人事みたいな気構えじゃダメだよ。 営業部との飲み会なんだから、気合い入れないと。」 「気合い?そんなのいらないよ。」 「そんな事言ってたら、気づいた時には干からびているんだから。」 そう言って、私の背中をバシっと叩いて彼女は自分のデスクへ戻っていった。 田上さん、実はつい数分前にどうにかしないとマズイって思ったばかりです・・・ 「気合いね・・・」 思わず呟いた言葉がどんな意味を表しているのかはわからなかった。 でも今夜のことを思うと私の気持ちは灰色の空模様のようにくすんでいた。
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