那の章~断れない武器

12/15
1241人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
「はぁ……」 思わず声が漏れた私を、乗り込んできたセシルさんが 不思議そうな顔で見つめた。 「うん? どした?」 「あ! いえ。  すごく乗り心地が良いなーって……」 「ありがと……お気に入りのシートだから、  褒められると嬉しいよ」 「素敵ですっ」 「じゃ、行こうか。  結子、シートベルト締めて」 「は、はいっ」 カチッとシートベルトをセットしたと同時に、 セシルさんがエンジンを入れる。 内心すごい音なんじゃないかとビクビクしていたけど、 むしろ普段乗るタクシーなんかより、よっぽど静か……。 って、タクシーと比べる私って……。 車に乗ってから、シルバーのフレームが上品なメガネをかけた セシルさんの横顔に、うっとりしてつい見惚れてしまう。 カフェでの話の続きをしながら、私は徐々に セシルさんとの距離が近くなっていくような気がして 嬉しくなった。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!