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今日こそ、私は勢いで机の中に入っていた一枚の紙を用意する。
「花崎さん、あの」
「なんだね?何か分からないことがあるのかね?」
加齢臭を漂わせ、思わずウッと鼻を摘まんでしまう。
本人は気づいてないので幸せ者だと思う。
「いえ…私…ここの職場を辞めたいんですが」
よし、言えた。
そして辞職願を差し出すと花崎は血相を変えて「受理するわけねえだろう!」と叫んだ。
そしてあちこちから「和田さん、絶対辞めないで」とか「ここの町役場はあなたにかかってんだよ!」とか賛美とは言い難い言葉を掛けてきた。
「…こんな、やり甲斐のない仕事場で…ただお金を貰うだけなんて、私には出来ません」
「仕方ないべ、過疎化も進んでてのんびりしてるのがこの町の良いとこなんだべから」
「…その考え方が気に食わんです」
「じゃあ、おめえ、なんか考えがあって言ってんのか?」
その時、咄嗟に「観光地にしてみたり…とか」と半分冗談で口に出すと時間が止まったように同僚達が動きを止めた。
「分かった。観光地と言えば東京だべ。おめえが行って来い」
「えっ?」
「要はここを観光立県にすんだべ?東京さ行くしかねえべよ!まず都庁さんに連絡すっから…知り合いがいるんだぁ。明日からでも行け」
「明日って…そんな」
…何故か周りから拍手が聞こえるし。
24歳にして仕事で上京する事となった春子は、ただ辞めたいだけなのにと思った。
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