プロローグ 彼女は壇上で愛を叫ぶ

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 斎藤君の話を簡単にまとめるとこうだ。 〈野球部の部活動説明の番→ステージの裾に部長らしき人が一瞬見えたが、何かに引っ張られるようにして消える→悲鳴らしき声が聞こえる→そこから数分誰も出てこない→今ここ〉  ということらしい。 どおりで騒がしくもなるはずだった。  んっ? いや待て  ふと全身を駆け巡った嫌な予感。冷や汗が背中をつたう。  “野球部”と“悲鳴”。この二つの単語から連想できるとてつもなく邪悪な存在に俺は心当たりがあった。 「おい! あれ見ろ! ステージに誰か出てきたぞ!」  すると突然、誰かがそう声を上げた。  その声につられてステージに目を向けると、小脇に赤い台座を抱えた女生徒がステージの裾から中央のマイクへと向かって歩いていた。 「げっ」  その姿を見て、思わず声を漏らしてしまう。  あの腰まである少しウェーブのかかった栗色のロングヘアー。遠目から見ても分かる程にパッチリとした大きくて強気な瞳。そして何よりあのミニマムサイズ。  嫌な予感は的中した。あれは間違いなく、先程俺が想像した邪悪な存在――神代夢希だった。 「誰だあれ?」 「可愛くね? 人形みたいじゃん!」  神代の登場により体育館は一層騒がしくなる。特に男子生徒中心に。  まったく、馬鹿な奴らだ。あいつの本性を知らないからそんなことを言えるのだ。  しかし、分からなくもない。確かにあの容姿だけ見たら、男子生徒のハートは容易く射ぬかれてしまうだろう。なにせかく言う俺もその犠牲者の一人だったのだから。だがそれはあくまで『容姿だけ見たら』の話だ。神代の凶暴性を知ったら、皆裸足で逃げ出すに違いない。
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