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そんな彼等が最も活発に動き出す奇妙な時間、草木も眠る丑三つ時。
暗き闇夜を打ち払うように、凜と輝く星々が一番綺麗に見えた時、事件は起こったのだ。
薄い膜のような霧が、まるで人の目を其処から逸らそうとしているかのように立ち上っている、ある有名な山脈。
その誰しも一度は憧れる山の頂上には、木で作られた精巧な仏閣が城のように幾重にも連なっている。
金箔は一切使われていないのに関わらず、厳かさが漂う此処は、双縁寺と呼ばれる寺だった。
だが、その立派な建物の廊下を足音をたてて走っていく坊主の少年の姿があった。
少年の服装は、白が少しだけ変色して黄色くなった厚い着物に、藍色の色が薄くなった袴。
見たところ、まだ寺に奉公に来て日も浅そうだ。
「大変です、大変なんです。清名(まさな)様!」
口を小刻みに震わせているのは、走ってきたからではないのだろう。
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