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目を合わせてはいけない。本能的に悟ったのも束の間、合ってしまった。目と目が。桜宮咲という魔王はニヤリと笑うと、俺の方へと歩みを進めてきた。身体が動かない。既視感が襲う。謎の城に連れて行かれた時のだ。あの時は、巨大生物であったが、今の桜宮咲でも十分なオーラを放っている。
教室に居る生徒が色々な視線を俺に浴びせている中、ついに目の前にまで迫ってきた。そして彼女は、俺の胸倉を掴み顔を自分の顔へ引き寄せてきた。教室に沈黙が走る。生徒の視線が一つのものとなった。奪われてしまった、俺の一度目の接吻。ファーストキッスが。
―――契約よ
桜宮咲の、透き通った声が、耳元で囁かれる。
―――あなたは、私の下僕となった
俺以外の誰にも聴こえない声。
―――いいよね?
教室の誰かが、騒ぎ立て始めた。それを合図にしたかのように、クラス全体が五月蝿くなる。
こっち、着いて来て。俺は手を引かれ、教室を、学校を抜け出した。導かれるがままに。
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