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怪物がまず手を掛けたのは、我が子を守らんと自らの身を怪物の前に晒し、我が子を逃がさんとする母親だった。
青年はそんな母親を押し退けようとしたが、母親は優しい表情を浮かべて青年を諭すように口を開く。
「衛(まもる)貴方は、恋(れん)を連れて逃げなさい」
「ダメだ母さん!!一緒に……一緒に逃げよう!!」
しかし、青年は納得できず、母親の腕を掴み、怒鳴り声をあげる。
青年の腕には、中学生くらいの女の子が小さな身体を震わせながら抱き付き、母親を見ていた。
「ダメよ衛。母さんはきっともう間に合わない。その間に貴方は恋を連れて逃げなさい」
「……ぐっ、そんな事を言わず母さんも……」
「そうだよママ!!一緒に逃げよう」
縋る我が子に言葉を重ねるが、青年は納得できずに小さく呻き、尚も懇願する。
腕に抱きつく少女も涙ながらに母親に訴える。
が、怪物は母親との間の距離を、じわりじわりと詰めてきており、もはや飛び付けば届いてしまう距離にまで迫っていた。
母親に詰め寄る怪物、その姿はまるで虎のようであったが、ただ皆がよく知るそれと違い、その額に二本の鋭い角を持ち、背には黒く大きな翼を生やしている。
『グルルル…………』
そんな虎のような怪物は、二人の母親をギロリと鋭い眼で睨み付け、低い唸り声を漏らしながら、ボタリボタリ……と唾液を口から垂らしつつ、ジリジリと母親に詰め寄るのであった。
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