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何か言おうとする彼の言葉を制止するように、片手を上げて。
「また、電話するから」
そう言って、足早に改札に向かう。
彼は追っては来なかった。
電車に乗って、ドア付近に凭れながら、ようやく安堵の息をつく。
まるで、何かに追い立てられたような。
あんな風に、彼を責めたのは私で。
間違ったことを言ったつもりはないのに、この後ろめたさ。
その原因はわかってた。
脇に抱えたバッグから振動がして、携帯に着信のあることがわかった。
取り出すと画面に彼の名前と。
『今日は、ごめん。心配しなくても、仕事もちゃんとしてるから』
気まずさから、なんと返信しようか指が戸惑う。
絵文字の一つにも気を使いながら考えて、
『私こそ、意地になってごめんね。それに、余計な心配してごめん』
後から思えば卑屈にさえ見えるような、文面を返した。
――― 仕事しながらでも、俺は恵美のこと考えちゃうけど。恵美は忘れてそうだもんな。俺のこと。
その言葉にどきりとした。
事実、私は今日一日、瑛人君と彼に任された仕事のことばかり考えて彼のことなど欠片も思い出さなかった。
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