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私の名前、知っててくれたんだ。
と浮かれる自分が頭の片隅に居るけれど、実際はテンパってそれどころじゃない。
だって、何を、言えば。
随分長く感じた1秒後。あっさりと。
小学校の時、リレーのゴール前で抜かれた時のことを思い出した。
「あ、笹倉君。おはよーございます。盗み聞きやめてくださいよ」
「おはよーございます。狭山さん。随分レベル高い合コンですね」
美里がさらりと、彼と挨拶プラス雑談を交わしていた。
「あはは。女子レベルってこと?攻略難易度ってこと?」
両方っす。
って、言いながら彼は、何も返せなかった私にも笑顔をくれて追い抜いて行った。
「あの人、見た目誠実そうでかっこいいけど、結構調子良いね」
笑う美里の腕を、思わず掴んだ。
「美里、あの人知り合いなの?」
「え?恵美も知ってるじゃない?向いの店舗の」
「そうじゃなくて、よく話すのかなって」
美里が、掴まれた腕と私の顔を交互に見ている。
手を離すと取り繕うように、こほ、と咳をひとつ。
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