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◇
「あはははは!け、ケーキじゃなくてがっかりしたって?馬鹿?馬鹿ですか?ちらっとそう思っても普通言わないよね!」
ひぃひぃと目の前で笑い転げてくれる友人が、ありがたいやら腹立たしいやら。
がやがやと休憩中の従業員で賑わう休憩室で、笑い声が一際大きく目立つ。気づいた彼女が慌てて口を覆った。
「ちょっと美里、結構経つからもう良いけどね、その時はそれなりに落ち込んだのよ?」
それでも、苦い思い出を些細なことだと思わせてくれるのは、時にありがたい。
「いいじゃない、浮気の言い訳にそんな言葉しか出てこない人、いらないよ絶対」
別れて正解、と言いたいのだろう。
目尻にたまった涙を指で拭きながら、笑いすぎて腹イタイ!と眉をしかめながら声を殺してまた笑う。
さばさばとした性格の彼女、狭山美里は私と同じデパ地下で働く洋菓子販売員だ。
見た目は楚々として、黙っていればモテそうなのに口を開けばこんな感じ。
だけど、それが付き合いやすくこうして休憩を一緒にすることが多くなり、今では女性の多いこの職場で一番信頼できる友人だった。
彼女はカステラじゃなくてバームクーヘンだけど。
カステラの何が悪いっていうの。
元彼のセリフを脳内で反芻して、私はまた口を尖らせる。
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