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シャッとカーテンを開ける音で、落ちていた意識が少しだけ浮上した。窓から差し込んでくる日差しをよけようと、布団を頭から被る。すると外から小さく声が聞こえてきた。
「…さん。由貴さん」
「んー…」
「もう8時ですよ。朝ご飯食べに行きましょうよ」
まだ醒めきらない頭に流れてくる、優しい声。布団から頭を出して、わずかに開いた目で立っている位置を確認すると、一郎の手を引っ張ってベッドに引きずりこんだ。
「っわ、ちょっと、危ないじゃないですか」
「ん、あと、ちょっとだけ」
「俺より寝てるなんて、由貴さんも朝ダメなタイプですか?」
「んー」
「ちょっと、聞いてますか?あと苦しいです」
聞いてない。だって腕の中の温もりが伝わってきて、ますます眠たくなってしまう。でも少しだけ抱きしめる力は緩めて、一郎が体勢を整えられるようにしておく。あとで怖いし。
すると一郎は、俺の腕からするりと抜けて行ってしまった。少しさびしいけど、仕方ない。俺もそろそろ起きるか、と思った瞬間、再び隣に温もりが戻ってきた。
「あとちょっとだけですよ。俺もまだ少しだけ、少しだけ眠たいんで、付き合います」
「…ん、ありがとう、一郎」
「でもお腹も空いてるんで、あと五分ですよ」
「分かった。じゃああと五分、ちゅーしよ」
「え?な、ちょ、うわっ…!」
無自覚鈍感で、素直じゃなくて、でも優しくて温かい。そんな彼が、俺の自慢の恋人です。
とりあえず、朝食の前に。君からの甘い口付けをいただこうかな?
終わり
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