自分でも気付いていなかったから

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勉強も運動も研究も、昔から俺にできないことなんて、何もなかった。 もちろん恋愛に関しても同じ。相手に困ったことなんてなかった。 だから、こんなことになるとは思っていなかったんだ。 自分でも気付いていなかったから 「え?千里、今何て言った?」 「だーかーら、舞浜さんと桜川センパイ。付き合ってるんだって」 言い終わるか終わらないかで、俺の目の前にあった湯のみが大きな音を立てて割れた。というか、割られた。中にお茶が入ってなくてよかった。 壁に叩きつけて割った張本人・紅葉は、普段の王子様フェイスはどこへやら、顔面蒼白で震えている。うーん…まあ、言ったら動揺するとは思ってたけど、ここまでとは。いやごめん、これくらいするとは思ってた。 「……湯呑み割って、ごめん」 「いや、いいよ。紅葉、怪我してねえ?」 「大丈夫。…ごめん、俺部屋帰るね」 「おう」 顔色が戻らないまま、紅葉は俺の部屋から出て行った。俺は慰めも追いかけもせず、割られてしまったなんとか焼の湯呑みの破片を片付ける。キラは相川さんが散歩に行ってくれているので、部屋には俺一人。 とりあえず誰も怪我しなかったことにホッとしてから、破片を捨てて、パソコンの前に座り、締め切り近い小説の続きを打ち込む。今回は連載ではなく短編なので、主人公が何人かいる。 (次の主人公は、そうだな…失恋した美少年、ってーのにしようかな) 親友の失恋も、俺にかかれば小説のネタ。我ながらひどいと思うけれど、仕事だから仕方ない。
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