自分でも気付いていなかったから

5/7
前へ
/49ページ
次へ
二人部屋にはあまり入ったことがなくて(普段一人だから)最初どちらが紅葉の部屋か分からなかった。 しかし、ドンッと大きい音が片方の部屋から聞こえて、迷わずそちらのドアを開けた。 中に入ると、ベッドの下に、パジャマ姿の紅葉が倒れこんでいた。 「紅葉!?大丈夫か?」 「ん………、あぁ、千里か、……。ごめん、大きな声出さないで」 「え、あ。悪い」 よく見ると、紅葉は顔が真っ赤で目は潤んでおり、全身うっすらと汗をかいていた。 BLの恋人同士なら、攻めが理性外しそうなシチュエーションだが、紅葉は親友であり、かなり病人っぽい。ふらふらな体を支えて、とりあえずベッドに戻してやった。 「熱あるのか?大丈夫か?」 「うん、ちょっと。薬飲もうと思ったら、足がふらついて、……っは、ありがとう」 少し離れたテーブルに置いてあったペットボトルを取って渡すと、錠剤を口に入れてから、弱々しいながら一気に飲んでいた。ふうっと吐き出された息が熱く、呼吸が荒い。 「会議来ないから、先輩たちが心配してたぞ」 「ごめん。昨日、水シャワー二時間くらい浴びたら、朝から熱出しちゃって」 「そりゃ出すわ。なんで……あ」 なんでそんな奇行に走ったのか。理由はそれこそ、昨日の俺の発言だろう。珍しくいらないことを言ってしまったのに(普段も空気読めない発言するけど)、紅葉はツッコミもしなかった。それだけ体が辛いのだろう。 「あー、あのさ。さっき、坊主頭のでっかい奴に部屋入れてもらったんだ」 「ああ…、楓のことか。本田楓、クラスメートで同室のヤツだよ。バスケ部なんだ」 「さっき部屋の前まで来たけど、すぐ行っちゃったんだよな。何しに来たんだろ」 「…もしかして、様子見に来てくれたのかも。俺が朝リビングでぶっ倒れたから」 そうか。俺が来たから、他に見る奴がいると思っていなくなったのか。つーか、リビングでぶっ倒れたって大丈夫なのかよ。 それからしばらく部屋にいて様子を見ていたけど、薬が効いてきたのか一時間前よりも顔色が良くなった。 「なあ、本田ってヤツと仲いいの?」 「ん?楓は、…クラス一緒だし、同室だし。名前がさ、楓と紅葉でしょ?だから、そこから仲良くなったんだけど、…。 見た目は強面だけど、いい奴だよ」 「そっか」 「ごめん、寝る…」 「おう、ゆっくり休めよ」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

651人が本棚に入れています
本棚に追加