自分でも気付いていなかったから

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そう言うと、すぐにすうっと寝てしまった紅葉。まだうっすら汗ばんでいるけど、この分なら大丈夫だろう。 近くにあったタオルで顔の汗を拭いてやってから、静かにドアを閉めて部屋を後にした。 会議途中で抜けたけど、時刻はすっかり下校時間。今日はもう自室に帰ろうと廊下を曲がったら、坊主頭こと本田楓にばったり出くわした。 「おお、生徒会の森谷か。紅葉、大丈夫だったか?」 「ああ、薬が効いて今は寝てるよ。後は頼む」 「悪かったな。あいつ、あんまり人に頼るのが好きじゃないから、なかなか頼めなくてな。じゃあ、また」 そう言うと本田は、足早に部屋に帰っていった。なんかあの世話好きオーラ、鈴木先輩を思い出すな。 自室に着いてから、一応桜川センパイにすいませんでしたと報告メールを送り、部屋の真ん中にあるソファに体を沈める。そうして、今日の出来事に思いを巡らせた。 (紅葉と、楓か) 本田が言っていたように、紅葉は人目を引く容姿をしているのに、自分から積極的に人と関わろうとはしない。そして何より、他人に頼ることをあまり好まない。ヤンデレ属性のくせに常識あるから、桜川センパイも可愛がっているんだろうけど。 そして、紅葉は人と関わらない一方で、気に入った人間にはとことん懐く。だから、彼が名前を呼ぶ人間は、俺以外にはいないと、今まで思っていた。 (そりゃあ、別に名前呼んだからって好きとか付き合ってるってわけじゃねーけど) でもなんだろうか。俺以外に、紅葉に名前を呼ばれているヤツがいるという事実が、苛立って仕方ない。本来なら、BL小説のネタにすべきことなのに、そういう考えに持っていけない。 (いいじゃんか、失恋した美少年を、同室のスポーツ少年が優しく慰めて、そこから始まる恋。最高のネタじゃないか) 最高の、ネタなのに。なぜだ。 ちく…と、胸のあたりが痛む。おかしいな、紅葉の風邪がうつったんだろうか。 小説の締め切りもあるし、他の仕事だってやらなければいけないけど、どうも気分が優れない。 (今日は寝よう。で、明日また話の続き考えよう。ネタはあるんだ、大丈夫) そう思って早々と布団に潜り込んだけど、どうしても明日美少年とルームメイトの恋愛を書ける自信は湧いてこなかった。 終わり 次ページおまけあり
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