自分でも気付いていなかったから

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おまけ・本田楓side 一度部屋に戻ってから紅葉の部屋へと足を運ぶ。ノックすると、小さく返事が返ってきた。 「入るぞ」 「どうぞ」 中に入ると、ベッドに座って水を飲んでいる紅葉が見えた。朝見たときよりも、顔色は良くなっていた。 「おかゆ、レトルトだけどあっためたから。ほれ」 「ん、さんきゅ」 「森谷ってヤツが来ただろ?あいつ心配してたぞ」 「うん。千里は、変わり者だけど、優しいから」 そういう紅葉の目は、嬉しそうな、切なそうな、複雑な表情を含んでいた。以前から話を聞いていた、生徒会の憧れの先輩と、大事な親友の話。紅葉の目がこうなるのは、いつもその二人の話をする時だった。 「…なあ、ひとつ聞いていいか?」 「ん?」 「お前さ、先輩と、森谷。どっちが好きなんだ?」 「……先輩は、カッコよくて可愛くて。 千里は、変わり者で、アホで、空気読めなくて、優しくて、たまにカッコいいんだ」 「紅葉、お前もしかして」 「…うん。いつからだろうね。友達でいるのが辛くなってきたのは。自分でも最近気付いたんだけどさ」 そう言う紅葉の顔が、また寂しそうに優しく笑うから、俺はかける言葉を失ってしまった。 そして同時に、この他人に頼れない男が、早く幸せになればいいと願わずにはいられなかった。 終わり
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