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食事を終えた俺は、支配人に部屋にデザートを運ぶように頼み、レストランを後にした。再びエレベーターに乗り、一階下にあるスイートルームへと足を進める。
部屋の扉を開けた一郎から、深い溜め息が聞こえた。
「うわ、すご…」
30階建てのホテルの、一番眺めの良い部屋。大きな窓から見える夜景は、ビルの明りを、タワーを、交差する車のライトをうつしていた。キラキラと光るその景色は、まさにクリスマスイブにふさわしいものだと思う。
「ここからだと、東京タワーとスカイツリーが綺麗に見えるんだ」
「なんかこう、ロマンチックですね。これ女のひと連れてきたら、一発で落ちますよ」
「ちょっと、彼氏の前でそういうこと言うか?」
「あ、すいません。素直な感想です」
へへっと笑った一郎は、次にソファの隣に置いてあるツリーに目がいったらしい。普段クールなイメージを持たれがちな一郎だけど、今は子どもみたいに目を輝かせて景色やツリーを見ている。その間に俺は上着を脱いでソファに座った。
「あ、デザートもう来てるよ。食べるかい?」
「はい。ちょっと歩いたら、お腹空きましたから」
「じゃ、ろうそく点けようか」
「あ、俺明かり弱めますね」
デザートはもちろん、クリスマスケーキ。イチゴがたくさんのったショートケーキに、可愛らしいチョコレートの家やサンタがついている。デコレーションを壊さないよう慎重にろうそくを刺して、ライターで火をつける。
部屋の照明を暗くしたから、ろうそくの火に照らされて、ケーキと、隣にいる恋人だけがよく見える。一郎がふっと息を吹きかけると、火が消えて視界がより狭まった。
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