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かすかに見える一郎が、嬉しそうに小さく笑っていた。俺も思わず、つられて頬が緩む。
「…メリークリスマスイブですね」
「そうだね」
「じゃあ、ケーキ食べましょうか。明り点けます…っ」
立ち上がろうとした一郎の手を引き、自分の腕に抱きよせる。ボフっと音を立てて、俺の体に飛び込んできた温もりを優しく抱きしめた。腕の中で一郎が、もぞもぞと動いている。
「あの…由貴さん、明かり…」
「うん。後で点けるよ」
「…ケーキ、食べたいんですが」
「俺の分もあげる。だから、ちょっとだけ、こうしてていい?」
「…はい」
俺の言葉に動くのをやめた恋人は、少ししてから控えめに腰に腕を回してきた。それが嬉しくて、抱きしめる腕に力を込めた。そして一郎の後頭部に手を回して、自分の唇へと引き寄せる。
「んっ…」
「……っ、は」
時折聞こえる吐息と漏れる小さな声が、俺のなけなしの理性を崩そうとしてくる。舌を入れると一瞬体がビクッと震えたが、離れようとしていたのは最初だけで、徐々に俺の動きに合わせようとしてくれた。それが嬉しくてつい、深いキスを何度もしてしまう。
…やっぱり照明は点ければよかった。絶対一郎は、色っぽい表情をしているはず。それをしっかり見れないのは、ちょっと残念だ。
「ゆ、きさん…っ」
「あ、ごめん」
苦しそうにする一郎に気付いたのは、彼の顔がおそらく真っ赤になってからだ。いつもより荒く息をする姿まで愛しいなんて、俺も相当重症だと思う。呼吸を整えるよう、一郎の背中を優しくさすると、俺の肩の近くで聞こえる息遣いが、少しずつ元に戻ってきた。
「…急にキスするの、やめてください。びっくりします」
「急じゃなかったら、いいの?」
「!そういうことではなく、…あと、あんまり、その。え、エロいキスも、やめてください。腰が抜けそうです」
「…」
こっちはお前の言動に、理性が崩壊しそうだよ。可愛すぎるのも考えものだ。
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