聖なる夜に口付けを

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自分を落ち着かせようと頭で九九を唱えている間に、一足先に落ち着いた一郎が照明を点けてケーキを1人で食べ始めた。いや、そりゃあ俺の分もあげるって言ったけど、そんなに食べたかったんだ。頬張る姿もハムスターみたいで可愛いけど。 そんなほんわかな光景を見たら俺もなんとか落ち着くことができて、一緒にケーキを食べる。口の中いっぱいに広がるイチゴの酸味と、生クリームの甘みが絶妙だ。つまり美味しい。 「……!!」 「美味しい?」 「……」 隣の一郎はもっと感動しているらしく、黙って頷いて黙々と食べている。可愛いけど、そんなにケーキに夢中になられると、ちょっと寂しい。 「一郎。あーん」 「は?何やってるんですか」 「何って、俺に食べさせてよ」 「嫌ですよ。自分のフォークがあるんですから、自分で食べてください」 先程の強引なキスに怒っているのか、少しツンツンした態度で切り捨てられてしまった。前デートした時は照れながらやってくれたのに。少しだけうなだれていたら、急に顎を掴まれて強制的に右を向かされた。そして同時に、口の中に甘い味が広がった。 「?」 「…それ、俺苦手なんで、食べてください」 ケーキの残りを見ると、さきほどまでいた砂糖で作られたサンタが消えていた。つまり、俺の口の中にあるのは、砂糖サンタなんだろう。そしてそれは同時に、 「一郎。今、俺に食べさせてくれた?」 「…べ、別にあーんとかじゃないですから。ただそれが苦手だから、先に食べてもらおうと思っただけです。勘違いしないでください」 「…うん、ありがとう」 俺もこの甘さはあまり得意じゃないけど、それよりも頬を赤く染めながらイチゴを食べる恋人が愛おしくてたまらなかった。 一郎は俺の照れた姿を可愛いというけど、一郎の照れた姿は世界で一番可愛いと思う。 「ちょっと由貴さん、隣でニヤニヤしないでください」 「ん?だって嬉しくて、つい」 「(ケーキ食べさせただけでそんな嬉しそうな笑顔見せられたら、恥ずかしいじゃないか…)」
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