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もちろん背中の温もりの正体なんて、ひとつしかない。俺は恐る恐る、後ろの一郎に話しかけた。
「い、一郎?」
「…」
「どうかした?」
「…………、由貴さん、振り向かないでくださいね」
「はい」
「今日は、ありがとうございました。とても楽しかったです」
「うん。どういたしまして」
ぽつりぽつりと話す一郎に合わせて、ゆっくり返事をする。心臓が少しずつ、鼓動を速めていく。
「あの、俺……
由貴さんが、本当に、好きです」
「っ、」
「だから、こうして二人きりで過ごせて、幸せです。とても、幸せです」
「…うん、俺も。俺も、幸せだよ」
どうしよう。すごく、振り向きたい。振り向いて、キスをして、抱きしめて、俺しか見えないように、どろどろに甘やかしたい。
でも振り向かないでと言われたし、と考える前に、体が動いていた。体を回転させて振り向き、息が苦しくならないよう、なるべく優しくキスをする。何度もキスをして、壊れないように強く抱きしめる。
「振り向かないでって、言ったじゃないですか…」
「ごめん。でも、あんな可愛いこと言われたら、俺だって抑えられないよ」
「可愛くないです」
「可愛いよ。すごく綺麗で、愛しい。大好きだよ」
「っ…も、反則です……!」
そのまま俺の胸に顔を押し付ける一郎を、黙って抱きしめた。
夕方照れさせられたから、これでおあいこかな?と思いながら、俺と一郎はそのまま眠りについたのだった。
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