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海治は優しい視線を向けて言う。 「咲良、今日ウチ来る?」 少しだけ考えて ……こういう場合は考えたフリをして、答えた。 「行かない」 クスリと笑う海治の右頬を見上げてあたしは思った。 さっきの彼、なんで勘違いしちゃったんだろう。 名前、なんだっけ。 確か、イッた?ばっかり聞くオトコ。 海治に尋ねてみるのもどこか違うし。 海治はあたしよりあたしを知ってる。 だから、尋ねてみたらきっと何かしらの答えはくれるよね。 「やっぱり行く」 また笑いを滲ませた右頬を見上げたまま言うと、わかった、と言ってあたしの腰を引き寄せた。 「咲良、どうして彼としたの?」 「あぁ、えっと……」 幼稚園の子に話すように 柔らかく語る海治は あたしの話をいつも丁寧に聞いてくれる。 どんなつまらない内容でも 馬鹿げた内容でも 最後まできちんと聞いてから 答えをくれる。 「じゃあ、彼の頭の良さを感じたかったんだ」 クスクス笑いながら 咲良らしいね、と溢す。 あたしらしい、ってどんなの。 どうなったらあたしらしいの。 「よく、分かんなかった。 海治とは違ったよ」 「そ?」 海治と違う。 全然違う。
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