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「ん~、金がない」
京の壬生村、八木邸の一室に帳簿とにらめっこしながら――前髪で隠れていて目は見えないが――1人の少年が零した言葉は切実だった。
少年の名は、桜前伊呂波。
今年の如月に京に上ったばかりの壬生浪士組の現在唯一の勘定方である。
帳簿を睨んでいるであろう伊呂波の目は長い前髪に隠れ伺い知ることは叶わず、伊呂波の表情はあまり分からないが、への字に曲がった口を見て取ると、壬生浪士組の財政事情は相当深刻のようだ。
「桜前」
どうしたもんかと悩む伊呂波に声がかかった。
「おぅふ…イケボ」
「は?いけぼ?」
「え?
いえいえ、なんでもないです。お気になさらず。
それより芹沢さん、何かご用ですか?」
伊呂波に声をかけたのは、壬生浪士組筆頭局長芹沢鴨だ。
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