『チェック・アンド・リベンジ』

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   パチリ、と小気味良い音が鳴る。  音の源は魔法の森に位置する店、香霖堂のカウンター。  上にはプラスチック製の将棋板が置いてあり、それを挟んで二人の人物が向かい合っていた。 「王手銀取り」  そう言って角の駒を裏返すのは香霖堂店主、森近霖之助。  営業時間であるにも関わらず将棋を指しているこの場を見れば、誰もが店主の性格を推して知ることができるだろう。  事実、お陰で香霖堂は閑古鳥すら居眠りする始末である。 「あややや……これは厳しいですねぇ」  対して頬を掻いているもう一人は伝統の幻想ブン屋、射命丸文。  天狗界では比較的古参に分類される『文々。新聞』の発行者であり、霖之助はこの新聞の数少ない講読者である。  カウンターに置かれた新聞を見るに、配達次いでの対局となったようだ。  現在の二人の戦歴は二戦一勝一敗。今は三戦目の終盤真っ最中である。 「うーん、もうこれは最後のお願いですね」  若干悔しげに文は馬となった駒の進路に歩をはる。  霖之助はゆっくりと息を吐き、手持ちの桂馬を置いて一言、発した。 「王手」  顔は稀に見る穏やかな表情であった。
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