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「いらっしゃい」
「ご無沙汰してます、霖之助さん」
「やほー森近、何か新しい商品入荷した?」
珍しく、霖之助の願いは天に届いたようだ。
やってきたのは哨戒の任に就く白狼天狗、犬走椛。そして川に住むエンジニア、河城にとり。
知り合ってまだ日は浅いが、この二人は他の常連と比べ、遥かに売上に貢献してくれるお得意様だと霖之助は認識していた。
「成る程、文が逃げたのは彼女が原因か……」
そして同時に、彼女が一目散に裏口から出て行った理由も凍解する。
「ん、文が来てたの?」
「さっき不穏な風を察知したとか言って店の裏口から帰っていったよ」
「……全く、あの方は……」
呆れとも不快とも読める表情を作る椛。
ふんと鼻を鳴らす彼女を見れば、何となく彼女と文の関係は察することができるだろう。
「まあ彼女があんな風なのは何時ものことだろう」
「あの方は不真面目過ぎるのです。この前も匿って白黒を山に入れてしまうし……どうしました?」
「ああ、いや、何でもないよ」
思わず込み上げてくる笑みを霖之助は何とか抑える。
以前、彼女に椛との仲を訪ねた際、文が言ったことを思い出したのだ。
――あの子は生真面目過ぎるのですよ。
どちらも大概だがね。
そう霖之助は心の中で呟いた。
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