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99%の冷酷と1%の人間味
前回の続き、というか付け足し。
クール・ニヒル・冷酷非情はハードボイルドの基本だが、勿論、人間味は一欠けらも有ってはいけないということではない。むしろ99%の冷酷非情の中にある1%の人間味は確実に読者の心に突き刺さる。
ハードボイルドって何?って聞かれたら、とりあえずこれを読め、と言って薦められる名作がある。
「ゴルゴ13」だ(マンガかよっ!)
200巻を超えるこの超大作の中で、マッシーが特別気に入っている回が2つある。今日はこの2話を紹介してみたい。
まず一つ目が「2万5千年の荒野」
これは原子炉が暴走し始めた原発の爆発をゴルゴが神業的な狙撃で食い止める話だ(原発が爆発すると2万5千年くらい生物が住めない世界になるらしい)。
爆発を防ぐにはパイプを撃ち抜き、緊急冷却水で温度を下げるしかないが、これは超人的な腕を持つ狙撃手でなければ不可能。偶然ゴルゴの狙撃現場を目撃した技術者バリーは、その腕を見込んで、自らの命を懸けて任務を依頼する。
ゴルゴの仕事が終わった後、バリーは自分は既に汚染されているから近寄るなと叫ぶが、ゴルゴは無言で近寄り煙草に火を点けてやる。
自らの命を投げ打ってまで原発事故を阻止しようとした技術者・バリーへの、ゴルゴの無言の敬意だろう。最高にシビれる。
原子力を安易に肯定せず、かといって簡単に否定もしない。中立的な視点で描かれているうえに読者自身が原子力エネルギーの消費者であるということを最後に問いかけて終わるラストは見事。
驚くべきことにこの話が描かれたのはチェルノブイリ事故の2年前、神がかっているとしか言いようがない。
二つ目は「天使と悪魔の腕」
事故で右腕を負傷したゴルゴは「天使の腕」と呼ばれる天才外科医・カッターの治療によって奇跡的に回復に向かう。が、今回の標的はカッターにとって恩人である養父(わりと善い人)。
ゴルゴは銃の改造屋に特注で奇妙な銃を作らせる。
ゴルゴはカッターの養父を狙撃した後、重大な裏切り行為をしていた依頼人(わりと悪い人)も撃ち殺す。
そして二つの狙撃現場に銃を置いていく。
依頼人を撃ち殺したのは普段使っているM16だが、カッターの養父を狙撃したのはなんと左利きように改造した銃であった!
他の人間が二つの銃の謎に困惑する中、カッターだけは、ゴルゴの右腕を治した自分への義理だということに気付く。
天使の腕(天才外科医)と悪魔の腕(ゴルゴ)の微かな共鳴が胸に響く名作。
そして左腕でも超人的な狙撃ができてしまうゴルゴかっけーw
一応断っておくと、普段はゴルゴがこのような人間性を見せることは無い。
本当に100話に一つか二つ、こういうシビれるシーンがある。
だから心に深く突き刺さるのだ。
人間味が10%を超えてしまうと甘ったるい作品になってしまうので、この辺の匙加減には注意したい。
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