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間を置いて、赤音が口を開く。
赤音「すまないな。キミの入部を許可することはできない」
黄一郎が顔を上げる。
黄一郎「……え?」
○駅前通り(夜)
浮かない表情で歩く黄一郎。
入部を断られた時のことが脳裏に蘇り、ギリッと歯を噛み締める。
黄一郎(別にいいさ。一人でも音楽はできる)
歩道橋の下でギターケースを下ろし、演奏準備を始める。
黄一郎(俺は一人でビッグになってやる!)
準備を終え立ち上がる。
黄一郎「聴いてください! 紗刀黄一郎で『犬と猫の境界線』!」
ギターを掻き鳴らし、必死に歌う黄一郎。
足を止めることなく去っていく歩行者達。
気持ちばかりの小銭を求めて開いているギターケースは空のまま。
諦めず歌い続ける黄一郎。
歩行者がギターケースに何かを投げ入れた。笑顔で歌いながらケースの中身を確認する黄一郎。
中には、火が付いたままの煙草が入っていた。
演奏を中止して煙草の火を消す。
虚しさで涙が滲んだ時、ギターケースに百円玉が投げ込まれた。
顔を上げると、ギターケースを背負った赤音が立っていた。
黄一郎「赤音……先輩?」
赤音「少額とはいえ金を払ったのだ。一曲くらいは聴かせてもらいたいものだな」
優しく微笑む赤音。
黄一郎は制服の袖で涙を拭き取り、ギターを取る。
そして再び歌い始めた。
○ファミレス(夜)
ボックス席で向かい合う形で座る黄一郎と赤音。
黄一郎の前にはホットコーヒー、赤音の前にはクリームソーダが置いてある。
黄一郎(ああ、恥ずかしいところを見られてしまった)
赤音「まあ、何だ。私は音楽には詳しくないが、キミの歌からは伝わってくるものがあったと思う」
黄一郎「恐縮です」
コーヒーを一口飲む。
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