アイヲシルモノ

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「水崎君がどうかした?今日はあなたも水崎くんも休んでたよね?何か関係があるのかしら?」 「ちょっとあるかもしれないです」 「こんなこと言うのはアレなんですけど、中でお話させてもらってもいいですか?」 「ウチ上がるの?」 先生は驚く。仕事を終えて帰ってきたところでまた生徒に絡まれたのではしんどいはずだ。 でもここは粘ろう。 「すぐ済みます。ちょっとだけお願いします」 先生は少し考えて、ちょっとだけならねと言ってくれた。 「先生ありがとう」 俺は先生の買い物をひったくって悠々とアパートの階段を上がった。 「お茶どうぞ。あとお菓子あったからそれも食べて」 那須先生は優しい声で、もてなしてくれた。 俺たちは座卓を囲んで向かいに座っている。 「……あの、そういや先生ってずっと独身なんですか?」 ふいに思った疑問。ストレートに訊きすぎたと俺はすぐに後悔した。 「女の人にそんな質問しちゃいけません」 先生は微笑みながら言う。 先生は優しい。俺と話すときはいつもにこやかだ。怒った姿を見たこともあるけれど、その時は正しい。芯のある人だ。 水崎じゃないが、俺も先生は好きだ。 「でも、先生はかわいいからモテそうなのに。学生の頃とかブイブイ言わせてたんじゃないですか?」 「うーん、学生の頃は付き合ってる人はいたよ。でもね、足がこんな風になってからはだめなのよ、やっぱり。20代で杖をついてるなんて、見た目でもうイメージは良くないから……。慣れたとはいえ実際生活は不便だしね」 「なんかすみません」 触れてはいけない部分に触れ続けて俺は自分が嫌になった。
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