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「じゃあ安田は今どこに?」
「知らねえよ」
「そんな…」
せっかく掴んだと思ったのに。更正していたのは良い事だけど、何だか取り逃がしたような気になった。
「店の連中殴ったりして悪かったな」
「いや、まだまだ血の気の多い奴らだからさ…安田の仲間かと思ってちょっとピリピリしてんだよ。こっちこそ妙な真似して悪かった」
長谷川の落ち着きを取り戻させるかのように健ちゃんは謝罪した。
「あのさ、このボトル買い取るわ。もう売り物になんねぇだろ?」
スッと健ちゃんは一万円札をカウンターに置いて、伸びた男の横に転がったボトルを拾った。
「そんなにもらえない」
「いいんだよ。俺はそこのサリバンでバーテンやってるから、お近づきのしるしだ。まあ一緒に頑張ろうぜ」
「ああ、よろしく」
安田が居なかったショックを隠せない横では健ちゃんと長谷川がすっかり意気投合していた。
あんなスマートな金の払い方は俺には到底できなさそうだ。
「ほらマサキ、行くぞ」
「あっ待って!」
すっかり主導権は健ちゃんが握っている。
「おい!」
長谷川がドアを開けようとする俺を呼び止めた。
「えっ?」
「これは出てった仲間の名前だ。探すんなら使え」
長谷川はそう言ってメモを差し出した。
俺は慌ててカウンターに戻り、受け取った。
「どうもありがとう」
「もし安田に会ったら言っとけ、自分のした事に詫びながら生きろ。償えばまだ間に合うって」
安田に憎しみのある俺にはちょっと飲み込むのに抵抗のある言葉だったが、真っ当な意見かもしれない。
「ああ、もし会えたら」
俺は落胆も悔しさ見せないよう少し強がって言った。
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