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「仕事はちゃんとするから良いんだけど、あの子のああいうところにはお手上げ」
「俺だって京子は難しいすよ…」
馬鹿息子も追い払ったところだし、そろそろ俺は動くと決めた。一刻も早く西崎を見つけないと。
「雪乃さん、ちょっと出てきまーす」
「ダメよ、京子がああなったらもう今日は降りてこないからあんたが代わりやんなさいよ」
そんな馬鹿な話があるのか?と俺は耳を疑った。
「えっ?別に俺じゃなくてもサーシャいるじゃないですか?」
「サーシャはまだ日本語でオーダー取れないでしょ。それに洗い物とピロシキ作んなきゃいけないし。あんたにピロシキは無理でしょ?」
サーシャが来てから〈ベルナール〉のメニューにはロシア料理のコーナーが出来た。
ロシアにいた頃は母の料理の手伝いを良くしていたらしくピロシキやボルシチなど大変好評で、ロシアには縁もゆかりも無さそうなオッサンが故郷のお袋を思い出したと涙していた。
「だから、今日はお願い。明日はしなくて良いから」
確かに〈ベルナール〉は満席ならずとも半分もテーブルが埋まれば忙しくなる。原因は人手不足だ。
「…わかりました」
「ありがとう。まあ今は暇だからゆっくりしてて良いけど」
俺は馬鹿息子のテーブルを片付けてから、カウンターに腰かけてまた新聞を広げた。
「何考えてんだあのオヤジ…」
安田グループはあと2人、西崎の暴走を少しでも早く止めたかった俺は大きなフラストレーションを抱えたまま、翌日になるまで何も起こらない事を切に願った。
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