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14.
翌朝、俺は夏美さんの病室にいた。
あんな事件に巻き込まれながらも、眠っている彼女の顔は何事も無かったかのように綺麗だった。
それが余計に辛い。もっと訴えかけて欲しい、何を見てどんなに怖くてという気持ちをもっと伝えてくれと思った。その気持ちは俺が…いや、みんなで受け止めるから。
何も言わない彼女を見ていると、思わず自分の感情を重ねてしまう。
彼女が感じた以上に俺自身が誇大に恐怖し、絶望している気がした。
「目を覚ましてくれよ。お父さんの為にさ」
西崎の暴走を止められるのは今は夏美さんが目を覚まさない限り無理だった。
仮に西崎を見つけたとしても今回ばかりは俺の説得で止められるとは思えなかった。
俺は夏美さんの手を取ろうとして止めた。
ドラマなんかだとこんな時に彼女の手を握って祈るが、まだ少し照れ臭かった。
俺にとっては女の子の手を握るチャンスなんてあまりない。だからどうも抵抗がある。しかも相手の同意なしだ。
……しばらく迷ったが、やっぱり手を握った。
「俺が必ずお父さん見つけるから。元気な顔見せてやってくれよ。頼むよ」
ギュッと思わず力が入る。夏美さんが握り返してくれる事はないが、彼女は心地いい体温で応えてくれたような気がした。暖かくて柔らかい、そんな女の子の手だった。
そして俺は勝手に力をもらった気がした。
また別の病室で俺は西崎の妻に会いに行った。
体力は回復したが、まだ精神的に辛いままだという。
扉をゆっくりと開けた。
彼女はベッドで身体を起こして、ゆっくりとページをめくり何か読んでいた。
「どうもこんにちは、東野マサキといいます。ご主人にはお世話になっています」
俺は頭を下げて驚かせないように出来るだけ静かに入った。
それでも彼女は俺に驚いたようで気付くと読んでいた何かをゆっくり閉じた。
「もしかして喫茶店の男の子かしら?」
喫茶店の男の子か、覚えやすいな。
「はい。お身体の具合はどうですか?」
「…少し落ち着いたわ」
「そうですか、それはよかったです。僕は今、ご主人を探しているんですがあれから病院には来られてますか?」
「最初に病院に来た時からもうどこへ行ったのか知りません。電話にも出ないし、もう私は何が本当なのかわからなくて…」
自分から会いに来たくせに俺はかける言葉がなかなか見つからず、どうしていいか悩んだ。
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