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「…僕も全部嘘だと思いたいですけど、朝が来る度そうじゃないって思い知らされて」
「夏美はダメかもしれないわね」
彼女は突然全てを悟ったように言った。
そんな事言うなんてそれでも親か?気でも触れたのか?
「そんなどうして?」
俺はまだ諦めてはいないが、それは俺個人のただの希望や絵空事であって現実をしっかりと受け入れた彼女の方がまともなのかもしれないと思い始めた。
「だから主人も消えたのよ。夏美が戻らないと知っていたらもっと夏美の手を握ってくれたはずじゃない?」
俺は返す言葉が無かった。
正しいのはこの親たちだ。
「ねぇ見て、これには夏美の全てが詰まってるのよ」
彼女はそう言うとさっきまで読んでいた何かを開いてみせた。
彼女の横に立って眺めると、それは夏美さんの多くの写真が貼り付けられたアルバムだった。
「これは1歳の頃、初めて立った時の写真。私達にやっと出来た子供のだったから夏美の成長が本当に嬉しくてね、今でもすぐに思い出せるわ」
「…そうですか」
「これは幼稚園の入園式。緊張してたみたいで泣き出しちゃってね」
確かに入園式の看板の前で撮った写真は笑顔だが、時間が立つに連れて泣き顔の写真が目立った。
「わかるでしょ?私達の天使なのよ夏美は。だから…だから」
「言わないで下さい」
歯を食い縛る彼女の言葉を強い口調で止めた。気持ちはわかるが、俺だって聞きたくない。
「まだ死んでない。夏美さんは生きてるんです。どうか待ってください」
彼女は涙を堪えきれずに嗚咽を漏らした。
それで良いと思った。諦めて懐かしむのはまだ早い。もちろん俺と西崎や奥さんの心のダメージは比べ物にならない。それでももっと悔しがるべきだ。
もう帰ってこないなんて、夏美さんに失礼だ。
現実を見るのも大事だ。でも時にはもう少し希望を持ってボヤけさせたってバチは当たらないはずだ。
少なくとも俺はそうやって生きてきた。
結局、俺は夏美さんのアルバムを最後まで見た。一番後ろには成人式の写真まで貼ってあり、彼女がいかに愛されていたのかを知った。
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