悪魔になった男

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「…もう一人いたんだ。喜多屋の馬鹿息子だ」 「喜多屋って醤油屋の?」 「ああ。あいつは安田たちを激しく嫌悪してた。うちの店でべらべらと喋んだよ。それにその時西崎も店にいた。そんなら夏美さんがあんな目に遭い、絶好と思った奴は西崎に近付いて安田たちが犯人だと嘘を教えたんだ」 「一応筋は通ってる」 「馬鹿息子は事件に便乗したって可能性が高い」 西崎は結局どこまで行っても被害者な気がした。 彼の憎しみは利用され、関係のない者たちが死んだのだ。 「だったら喜多屋の息子を探して問い質したら西崎さんはどこにいるかわかるし、まだ安田を殺すのも食い止められるんじゃない?」 「そうだな!そうしよう」 喜んだが、すぐに冷めた。 「でも馬鹿息子を探すったって本社に行くのか?特定するのが無理ないか?」 「えっ何で?」 まき子は拍子抜けしたように答えた。 「いや何でって…そんな人ひとり探すのがすぐ見つかったら俺こんな苦労しないだろ」 「彼は有名人だから別よ」 喜多屋の馬鹿息子はやっぱり有名人なのか?知らなかったのは俺だけか? 「彼はTwitterやってるのよ。地元の有名人だから結構フォローもされてる」 まき子は島田卓也のFacebook画面を消して馬鹿息子のTwitter画面を開いた。 「20分前に書き込みがある。〈授業終了、帰宅なう〉。大学終わったのね。それの返信に〈今日もお車ですかいいなぁ〉ってあるから車で通学してるんだ」 「それ知ってどうなるんだよ?」 「馬鹿ね、携帯からツイートされてるんだからここから彼の携帯にアクセスしてGPSで調べればどこにいるかわかるでしょ」 「なるほど」 「ちょっとお時間拝借」 そう言うとまき子はキーボードをカタカタをタイピングして実行に移した。 画面は目まぐるしく文字や数字が現れては消えていく。 「おさ~しみぃ、ひややっこぉ、たまぁごやきぃ。おいしいかい?うん、おいしい!やっぱぁり~ぃにほんいちだねぇ、きた~やの、おしょうゆ♪」 まき子は作業しながら喜多屋のCMソングを口ずさむ。 少々古くさいがみんな歌える。伝説のCMソングだ。 「ねぇ、喜多屋のお醤油って目玉焼きには最高だよね?」 「えっ?俺は目玉焼きにはケチャップだけど」 「馬鹿舌なのね」 ムカッと来たが、今はまき子だけが頼りだ。機嫌を損ねないように注意を払った。
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