悪魔になった男

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18. 車を飛ばす事約10分、ナビが示した場所には綺麗なアパートがあった。 しかも広めの駐車場が前についており、俺たちは車を乱暴に止め、駆け出した。もちろん事の真偽を確かめる為に馬鹿息子も連れて。 安田の女の部屋は二階の端の206号室で、すぐに見つけたがドアの前には若い女がへたりこんでおり俺たちは駆け寄った。 「どうした?」 「知らない男が竜ちゃんを」 竜ちゃん?安田竜二の事か。 「中で…竜ちゃんが……殺すって」 女は泣きじゃくり、言葉がキチンと聞こえない。 「で君は?」 「死にたくない…外へ出てろって……竜ちゃんが死んじゃう」 そう言うと女はうつ向いて強く泣き出した。 あんなクズの安田の事をこんなに思う人がいるのだ。愛する者が傷つけられる悔しさは西崎が一番知っているはずなのに、そんな事は全く気にしないでいる。 俺は今までは事故等に見せかけていたのに今回は家に上がり直接殺すのはなぜだろうと疑問だった。 しかしわかった。憎き相手を自らの手で殺し、その後自殺するつもりだ。 「おい!ドアに鍵がかかってるから破るぞ」 健ちゃんはそう言うと、ドアに思いっきり蹴りを三発入れ歪んだところを体当たりしてぶち破った。 「すげぇ…」 俺も馬鹿息子もかなり引いた。 時折、この人を敵に回したくないと心から思わせてくれる場面がある。 俺は馬鹿息子を引っ張り健ちゃんに続いて部屋に入った。 ワンルームの奥にはベッドに座り戦く安田がいた。待望の初対面だ。自信溢れるプリクラ写真とは違い、今は恐怖で顔が歪んでいる。 そしてその手前、安田の行く手を阻むように立っている男がいた。 男は俺たちが入った物音でこちらをゆっくりと振り向く。西崎だった。しかし想像通り彼の目は冷たく、こちらをまるで覚えていないかのように見つめた。 「西崎さん!」 俺は意味もなく叫んだ。少しでも反応が欲しかったのかもしれない。 「おい、この部屋最悪だぞ」 健ちゃんの言う意味はわかる。 なぜなら鼻をつんざくようなガソリンの臭い、床はテカテカとしており西崎の側にはポリタンクが転がっていた。 部屋ごと燃やして心中する気だ。 そして西崎の手にはライターが握られている。
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