悪魔になった男

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完全に油断していた。 きついくらいに首を締め上げられ、下に目をやると視界には大きくナイフがちらついている。 こんな状況での振りほどき方は健ちゃんが教えてくれた。けど、興奮状態にある奴を相手にうまくいく自信がなかった。 「何で俺が殺されなきゃいけねえんだよ!こんなオッサンも夏美って女も知らねえよ」 安田が半泣きになりながらも必死で弁解している。 「君は本当何もしてないのか?」 「ほっ、ほんとだって!嘘じゃない!大山公園なんてほとんど行かないって」 冷たく問う西崎とは滑稽なほど対称的に安田は取り乱して否定する。 「じゃあ私は…」 「そうだよ!西崎さんは利用されたんだこの男に」 少し西崎の心が動いた気がした。 俺はこんな状況にも関わらず希望を持っている。 「あれは嘘だったのか?君はじゃあ…」 「そうだよ嘘だよ。こいつらが前からやりたい放題やってたから懲らしめてやりたかった。そしたら喫茶店であんたの話聞いてこれは使えると思ったんだ。もし本物なら最高だし、嘘ならそんな嘘つくような奴はイカれてるに決まってるから。怒らせたら勝ちだと思ったね」 馬鹿息子はべらべらと話し出した。 いつものクセだ。いい気になると自慢が止まらない。それはこんな場所でも健在だった。でもとにかく今は耳元でうるさい。 しかし、そのおかげか言葉から何だか嫌な予感がした。 「怒らせたらってお前…」 俺は恐る恐る言った。 どうか違っていますようにって心の中で少し祈りながら。 「そうだよ。俺たちがあんたの娘犯ったんだよ」 やっぱり… 期待を裏切らないクズっぷりだった。昔から欲しい物は無理にでも手に入れて来たんだろう。 「美人だったから俺らもわくわくしたさ。まああんな時間に一人で歩いているなんてやってくださいって言ってるようなもんだ。それで顔は覚えられちゃまずいから頭ぶつけてやったんだ」 「…で後は探偵雇って安田たちの居場所見つけりゃ西崎さんが何とかするってか?どこまでクズなんだよ!」 俺は怒りをぶちまけた。少し抵抗するように暴れたが馬鹿息子は強く俺を締め付け、頬にナイフの冷たい感触がした。 「だからさぁ親父さん。そいつ殺せ。そしたらこいつは放してやる。早く…ほら早く!」 今一番興奮しているのは馬鹿息子だった。 この状況にどう対処するのかを必死で考えていると、健ちゃんがアイコンタクトを送ってきた。
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