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物音を立てるから奴の気が反れたら一気にいく、という感じだ。
馬鹿息子に気付かれないように頷くと、機会を伺った。
健ちゃんがカウントを取るように頷く。
3…2…1…よし!
「うわあああああっ!」
俺たちが動こうとするよりほんの0.2秒くらい先に馬鹿息子が悲鳴を上げた。
馬鹿息子は俺から離れ、悲鳴をあげたままよろめきだす。
「あああっ!うっ、うがあああ!」
胸を押さえながら膝をついて、さらにはその場に倒れた。
「ぐっ、があっ。ああっ、がっ、うわああっ」
この異常事態に俺も健ちゃんも唖然となってしまったが、その直後にこれが誰の仕業なのか感じてしまった。
俺は反射的に西崎を見る。
苦しむ馬鹿息子を冷たい目で睨んでいた。
「があっ、ぐう…」
馬鹿息子は相当弱り、もはや虫の息だった。
しかしそれでだけでは留まらず極めつけは不自然に身体を歪ませたと思うとゲボゥと何かを吐き出した。
それは赤黒い心臓で、そしてそのうち奴は動かなくなった。
自分の心臓を吐き出して死ぬ。それはどんな気分だろうか?
最後に馬鹿息子は自分の心臓を見届けたのだろうか?
考えるだけで自分が死んだような気分になる。
西崎の能力は本当だったんだ…
それまでは未だに半信半疑で、あれだけアクティブに事件を起こしていたけれど何らかのトリックを使ったりしていたと思っていたが、何だか強烈な現実を見せつけられた気分になった。
最高の苦しみを味わって馬鹿息子は死んでしまった。浅はかな告白によりそれは強い強い憎しみの塊をぶつけられたのだと思う。
「西崎さん…」
俺は声をかけるのが精一杯だった。
西崎の表情は少し落ち着きを取り戻している。
「私は愚かだな。夏美の事を思っていたのに結局この男の思うままに動いていただけなのだから」
「でもまだ間に合うからさ、だからこんな事もう止め…」
最初はただ、安田が西崎に抵抗の意味で体当たりをしたのだと思った。
そりゃあんな惨状を目の当たりにして次は自分だと思うと誰でもそうなるだろう。
しかし安田の抵抗はもっと意思の強いものであった。
倒れた西崎の周囲は瞬く間に血が広がり、安田の手には刃が長めの血にまみれた包丁が握られていた。
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