40人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしもし、今さ…」
俺は小声だったのか、言葉を遮って貴さんは話し出した。
『マサキ喜べ、西崎夏美が意識を取り戻した!』
なんだって!
放心状態だった俺は一気に正気を取り戻した。
『医者も奇跡が起きたって言ってるよ。よかったなぁ、ショックで記憶は曖昧らしいんだがこれで被疑者逮捕にも大きく繋がるしいやぁよかった』
「夏美さんはいつ目覚めたの?」
『10分前くらいだ。でも目覚めてすぐに腹減ったって言ってるからな。大したもんだよ。多分回復も早いだろうさ』
それならもう少し早くわかったら、もう一度夏美さんに会えるとなれば馬鹿息子の死も西崎本人の死も止められたかもしれないのに…
「出来たらもっと早く連絡してほしかった…」
「どうして?結構急いだつもりだがな」
「こっちはたった今彼女の父親が死んだんだ」
電話口では俺の一言に貴さんはかなり大きなリアクションを返した。
サプライズ返しだ。全然嬉しくないけれど。
『なっ、行方不明のか?どうして死んだんだ?』
「チンピラに刺された。そいつは今取り押さえてるからこっちに来てもらうなりそっち行くなりするよ」
俺は淡々と状況を説明した。訴えかけるような表現が出来る程体力がなかった。
『わかった。その場所の住所教えてくれたら向かわせる』
「それともう一つ。夏美さんを襲った犯人は喜多屋の馬鹿息子とその仲間だ」
また電話口では大きな驚きを見せる。
『本当か?なぜそれを?』
「本人が言ってた」
『奴はどこにいるんだ?』
「さっき夏美さんの父親に殺された」
『何だと?』
次々と新事実の発覚に貴さんはますます声とリアクションが大きくなっていったが、その温度差に俺はもう辟易していった。
「住所言うから取り敢えず来て、詳しい事は話すから…」
そう言ったにも関わらず俺は無意識に電話を切ってまた放り投げた。
色んな事がありすぎてまともな感覚ではいられなかった。
こうして悪魔は葬られた。しかし、人間としても父親としても。
彼の中の天使であった娘の目覚めがきっかけであれば、きっと彼の中の悪魔だけが消え去ったに違いない。
やはり彼を救えたのは他ならぬ彼女だけだっただろう。そして2人でまた笑い合える毎日を送ったに違いない。
そう考えると俺は何度悔やんでも悔やみきれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!