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1.
「ねえ、運命って信じる?」
古藤まき子は暗い部屋でいつものようにパソコンに向かい、背中を向けたまま不意に俺に話しかけてきた。
依頼した調査結果を聞き、そろそろ部屋を出ようとしていた時の事だった。
「えっ、何だよそれ……」
超がつく程の現実主義である彼女の口から飛び出すはずのない言葉に俺は返答に悩んだ。
「信じるというか、信じたい。みんなとの出会いには意味があるだろ」
普段あんまり考えた事はないが、思いつきにしちゃ立派な意見だと自分では思う。
まき子は椅子をくるっと回転させ、俺の目を見て言い出した。
「それも言えるけど、あたしの言いたいのとは違う。ここで言う運命ってのは人生の展開は最初から決まってるのかって事。例えすれ違ったとしても必ず結ばれる男女とか、死ぬ運命の人は危機を回避すると新たな危機が誕生して結局命を落とす。そういうのはあると思う?」
そんな質問いきなりにしては重すぎるだろ。
「そういうのはわかんねえな。良い事も悪い事も最初から決まってるなんてそんなの面白くねえよ」
「でもあたしたちはその答えを知らないでしょ?でもね、あなたの運命をあたしは知ってるの」
「なんだよそれ…」
ふふっと笑ってみせるまき子に少し背筋に寒気がした。
「これを見て」
まき子は大きめの白い封筒を見せる。
「これがどうしたんだよ?」
「今日、あなたがこの部屋に足を踏み入れたという事は……」
「と、いうことは……」
何なんだ……すっかり俺の心拍数は早くなる一方だ。
「これを郵便局に出しに行く運命なの」
「はあ?」
俺は呆れて物も言えなかった。
「……お使いのお願いするのになんちゅう回りくどいやり方だよ」
「お願い。切手代はマサキの方で負担していいからさぁ」
「なんで俺が金払わないかんのだ」
「お願い出してきてよ。だって学校じゃ依頼されたら何でもしてるでしょ?」
「あれは金もらってやってんだよ」
この女はまったく厚かましさこの上ない。
「だったら一回タダでシテあげる」
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