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俺は気が付けば相変わらずの好奇心で人だかりに参加していた。
やはり筋金入りのバカだと実感したが、やがて人をかぎ分けて進むと警察の黄色い結界線が見え、胸が高鳴った。やはり事件である。
「優也!お願いだから目を開けて!ねぇ!」
救急車に乗り込む担架には身ぐるみを剥がされ、アザだらけで血まみれなった男が寝かされていた。付き添いの女が悔しさを滲ませて崩れるように泣きわめいている。
男は割りと大きめの体格で格闘技なんかをやっていてもおかしくなさそうだが、凄惨なまでにぶちのめされている。
それにパンツ以外を奪うやり方、こんな事一体誰がやったんだと俺は強い疑問を持った。
その時、携帯がポケットで震えだす。表示を確認すると栄井北警察の刑事である貴さんからの着信だった。
「もしもし」
『マサキ、今何してる?』
「何って…今外歩いていたらさ、何か人がボコボコにされて救急車で運ばれたんだけど」
『外だと?早く家に帰れ』
貴さんは慌てて言う。
何だいきなり、偉っそうに。
「何でだよ?」
『昨日の夜中に拘置所から死刑囚が一人脱走した。名前は永井和明。元は強盗殺人犯だからな、気を付けないと襲われるぞ。未だに栄井周辺をうろついている可能性があるからな』
「マジかよ……」
死刑囚、何だか背筋がゾッとした。ただの囚人とは違う。国から死を告げられた人間、死に値する過ちを犯した人間…凶悪なんて言葉で片付けたくない脅威だった。
『その今の傷害も、永井がやったんじゃないかと俺は思ってる。金も何も持ってないからな。平気で襲うさ』
淡々と続ける貴さんの言葉には強い偏見が表れていた。
しかしこういう時にいつも正しいのはそんな厳しい目を持つ人間で、俺はいつもその甘い考えから痛い目を見てきた。今回だってそれくらいの気構えや警戒心が無いと次の瞬間には死んでるのかもしれない。
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