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「うん、わかった。すぐ帰るよ」
『じゃあな、頼んだぞ』
何だかやりきれない気持ち半分で電話を切り、俺は人だかりを後にした。
死刑囚か……会ったらひとたまりもないだろうな。
もしさっきの男がそいつにやられたなら相当強いはずだし、見るからに殺気立った顔してんだろう。
やべえな……
俺はビビってしまった。もし出会ったとして、勝てる手段が思い浮かばない。
もしかしてまき子がお使いを頼んだのはこの事を知っていたからか?
ここまで来ると人の言葉の一つ一つが気になる。小心者はこういう時に実力を大いに発揮するのだ。
あれ?今の……
一人で色々な事を脳内に巡らせていると、人通りの少ない中、大柄で少し足早に歩く男とすれ違った。
言葉ではうまく言えないがその男からはどこか懐かしい匂いがしたのだ。
「あの!すみません」
思わず俺は声をかけていた。
男は振り向き、こちらを怪訝な表情で見ていたが俺にははっきりとわかる。
やはりこういう勘は当たる。
「上林先生ですよね?懐かしいなぁ」
昔は敬語なんて使わなかったが、今は反射的に飛び出した。
「わかります?俺は東野マサキです。慶章小学校の生徒ですよ。ほら5年の時に担任持ってもらった」
あまりの反応の薄さに人違いかとも思ったが、男は目を細めながらこちらを見ていた。
しかし、次第に表情が明るくなり
「……おお、お前東野か?」
と返してくれた。
「そうですよ!思い出してくれました
?」
「思い出したよ!久しぶりだなぁ。元気してたか?」
先生は相変わらずの笑顔を見せてくれた。
突然の再会に俺は心底嬉しかった。
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