死刑囚

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『6年のなかよし会でおんなじ班だったんだけど、卒業の時に在校生に贈る為の折り紙ジオラマを製作してさ、あいつ折り紙全く折れないから俺が全部教えたんだよ。鶴もかぶと虫も犬もアヒルも。卒業間近の話なんだから千羽鶴なんて作れる訳無いだろ。それ誰が言ってたの?』 俺は言葉に詰まった。 それは何だか今まで心の奥にあったいくつかの小さな欠片でしかなかったけれど、今は組合わさって大きな塊となったそれが心を支配し始めた。 「上林先生本人だ」 『えーっ?じゃあ先生きっと間違えてんだろ。ってひょっとして先生今いるの?』 「ああ、いるよ」 『代わってくれよ!先生と久しぶりに先生と喋りたかったんだよ』 「わかった、いいよ」 俺はまだアルバムを眺めている先生に声をかけた。 「先生、伊丹矢一って覚えてます?」 「伊丹?……ああ、覚えてる覚えてる」 「今たまたま電話があって先生と話したいって言うんで話してやって下さいよ」 「いいぞ、代わるよ」 先生は携帯を受け取るとにこやかに話を始めた。 長年のブランクはそこに無かった。まさにそれは自然だった。 記憶違い、辛いもの好き、右利き、なぜか手紙までくれた生徒を間違える。 最初は先生のいい加減さがバッチリと表れたのだと思っていた。しかしそれにはまるで別の原因があると思う。 もし、もし自分の考えが当たっているとしたら…… この男は一体誰だ…… 電話での会話を楽しむ先生の背中を見て、そんな思いが俺の頭を過り背筋を震わせた。
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