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素直に答えてくれたが、欲しかったのはそれではない。
本当は音楽の先生の名前は田崎だ。そこを確認したかった。全く違う名前でも違和感無く話すのかどうか。
こんな試すようなまねはあんまり好きじゃないが、今は先生について知っておくべきだった。
「そうですか、先生と会ったらいろいろ思い出しちゃって」
「それはうれしい事だ。みんな元気にやってるんだろうな」
「僕もあまり会わなくなった子もいるけどでも、そうだと思います」
染々とこんな会話をすると表情は懐かしさを感じてるようにも見える。不思議だ。
やっぱりこの男は本物の先生なのか……
ただ話を適当に合わせているだけの全くの他人の空似か……
それにしては服装も気になる。良く見ればポロシャツは少し小さい。不自然な格好に見えない事もない。
試しに玄関(と言っても階段登った二階になるのだが)に置いてある靴を見た。
かかとが踏んである。サイズが違うのかもしれない。
嫌な予感は当たっている。俺はそう確信した。
問い詰めるような事は得意じゃない。それが好きだった先生ならなおさらだ。でも知っておくべきだった。一体何がどうなっているのか……
「せ、先生、あのさ…」
どうも言葉に勢いが無い。バチっと決める覚悟が足りないのは流石小心者だ。
「どうした?」
「正直に言うから正直に答えて。今日先生と会って思ったんだけど、先生は不自然な所が多いんだ。まず、最初ここに来た時に雪乃さんの事俺の母親だと思ったろ?挨拶の感じが不自然だった。お久しぶりですって言おうとしてたし」
先生は反論せずに聞いている。
「それにカレーも」
「それは克服したって…」
「そうじゃなくて利き手。先生は左利きのはずなのに右手でスプーン持ってた」
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