死刑囚

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「たまたまだよ」 「それに決め手になったのは中山可奈の話です。先生折り鶴もらったって言ってたけど矢一によればあの子は卒業前まで折り紙できなかったって」 「じゃあもらった相手を間違えたんだろ。急にどうしたんだ東野?」 一瞬険しい表情を見せたと思ったが、気が付けばさっきまでの穏やかな表情に戻っている。 「正直に言ってくれよ。誰なんだ?本物の先生か?」 「あんまりしつこいと怒るぞ」 その時、また俺の携帯電話が鳴った。 何だか張り詰めた空気が緩和されたようにも感じ少し安心した。 相手は古藤まき子、えらく早い。 俺は先生を残して自室に戻った。 「もう何かわかったのか?」 『ホントあんたは疫病神。厄介な案件持ち込まないでくれる?』 まき子はあきれたように言う。よほど大きいネタがかかったのだろう。 「どんなネタが上がったんだ?」 『ネタ自体は普通だけどさ、手を出したら面倒臭くなりそうなんだよね』 「だから何なんだよ?」 『取り敢えずわかった事。上林輝男、52歳。富山県富山市生まれ。25年前に栄井市の教員採用試験に合格。9年前に慶章小学校の教員となる。そして4年前に退職。そこからは職を転々としてるみたいだけど、重要なのはそこじゃない』 「じゃあ何が重要なんだ?」 『永井和明って知ってる?』 「全然知らねぇ…ってそいつ」 『今絶賛脱走中の死刑囚。栄井にいるって噂のね』 「その永井と先生に何の関係があるんだよ?」 『写真送ってあげるわ。取り敢えずびっくりしときなさい。引き続き調べとくから、じゃ』 一方的に電話を切られた直後、すぐに画像が二枚送られてきた。どちらも先生が写っていた。 一枚はにこやかに集合写真に写る上林先生。下には名前が記されている。 そして、もう一枚に写っていたのは逮捕されたりした場合に恐らく警察で撮られたと思われる写真。写っていたのはカメラを冷たい眼で睨む男。名前は永井和明と書かれていた。 俺は立ち眩みがするほど混乱した。
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