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5.
俺は急いでまき子に折り返した。
『はい』
何事も無かったかのような声で出た。
「どうなってんだよあれは!」
『あたしもびっくりした。そっくりだもん』
「そっくりだもんじゃねえよ」
俺は混乱も手伝ってイラついている。
『でもね、他人の空似じゃないみたいよ』
「どういう事だよ?」
『生年月日が全く一緒で永井も富山出身。これは偶然かな?恐らく2人は…』
「双子…」
あんまり腑に落ちない展開だった。
「じゃあ今俺の家にいるのは永井なのか?」
『家にいるの!?でもそこまであたしがわかる訳ないじゃない』
「だよな。ちょっと確認してみる」
『それにしても死刑囚がいるなんて怖すぎ。あんたの店にコーヒー飲みに行こうと思ってたのに行けないじゃない』
「一回も来た事ないだろ」
『そうだっけ?まあ死なない程度にがんばって。引き続きやっとくから、ちゃんと警察に言うのよ』
まるで母親のような言い方だ。
「ありがとよ」
今度は俺が電話を切り、またリビングに向かった。
先生はまた腰掛けて置いてあるタウン雑誌をめくっていた。
俺は一か八かストレートにぶつけてみる事にした。
「…永井和明」
俺の言葉に先生は反応した。すると先生が見せたのは、なぜ知っていると言わんばかりの表情だった。
「あんたは上林先生じゃなくて永井和明だろ?」
「おい、誰に向かって言ってんだよ?」
永井もゆっくりと立ち上がりどすの利いた声で言う。
さっきまでの穏やかな表情とはまるで別人だ。
間違いない、こいつは永井だ。
「なりすましてうまい具合に逃亡する気だったのか?俺は騙されただけでも相当ムカついてんだよ」
「そうだよ。お前がムカついたかなんて知らねえよ。それはお前が勝手に間違えただけだろうが。腹も減ってたし少し休もうと思ったんだ、ラッキーだったよ」
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