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平然と言ってのける態度はやっぱり永井だが、顔は先生のままで何だか俺は複雑な気持ちになった。
「確かに卒業アルバムに載ってるお前の先生は俺にそっくりだよ。だけど俺には何の関係もねえ」
先生の事は何も知らないのか?双子というのは考えすぎか?
いや、偶然にしては出来すぎだ。
俺は頭の中がこんがらがった。
「そうか、でもあんたが永井ならとんでもない野郎だって事には違いないんだ。俺には警察の知り合いもいる、あんたは終わりだよ」
「ガキが何言ってやがる」
永井と数メートルの距離で立ったまま、にらみ合いが続いていた。
永井には余裕を感じられるが、俺はとてつもない緊張感に襲われている。相手は何せ死刑囚だ、そして俺は刑事じゃない。
俺を根性無しと笑う奴は俺と同じ目に遭えば良い。道端なら逃げられるが、奴がいるのは俺の家だ。
「まさか死刑囚だなんて知らなかった」
俺は貴さんに報告しようと携帯を取り出した。
先生と死刑囚を間違えるなんて失礼な話だったがもう茶番も終わり、先生にも連絡が取れたら謝ろう。
「ねえちょっとマサキ、そろそろあんたも手伝ってよ。先生来てるのはわかるけど休みなんだから、ねえ聞いて……」
電話の画面を見ながらも聞こえていた雪乃さんの声が不意に途切れた。
まさかと思い俺は声の方を見た。
「最悪だ……」
永井は雪乃さんを右腕で抱き込み首もとにカッターナイフを押し当てていた。
「調子に乗ってんじゃねぇぞガキ!余計な事したらこの女どうなってもしらねえぞ!」
雪乃さんは永井の腕の中で震えている。
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「わかった。でも雪乃さんは関係無いだろ。それに今誰か傷つけたらもっと罪は重くなるんじゃないのか?」
奴は死刑囚だ、これ以上罪は重くなりようがない……何言ってんだ俺……
人質を取った犯人の説得なんて初めてだ。上手いやり方なんて知るわけない。
俺は混乱しながらも何とかしないとという思いで話す。
「あんた死刑囚なんだろ?だったら何人殺してもいいのか?自分の都合ばかりでそんな簡単にいつも人を傷つけてきたのか?」
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