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「俺もワケわかんなかったよ、でも誰も信じないんだ。俺が前科もあって、出てくりゃやり出てくりゃやりの繰り返しでそりゃ信じるわけないわな。弁護士だって減刑でいこうって無実なのは無視だからな。挙げ句に裁判負けちまって死刑だよ」
今までの永井と違ってその言葉はまるで疲弊していた。憤りでも嘆きでもなく、ため息を吐くように口からこぼれていた。
「だから狭い空を見ながら考えてたんだ。これは今までの報いだって、今まで多くの人間を不幸にしたんだから今度は自分の番だって」
「だったらなんで今になってこんな事…」
「やっぱり死ぬのは怖いんだ。このまま間違えられたまま死んでいいのかってある時感じたんだよ。どんなに強気な人間でも明日死ぬかもしれないって考えながら生きるのは無理だと思うぜ」
わかるけど…わかるけど今のこれは違うだろ。
「だったら雪乃さんを放せよ今度やったら本物の人殺しだろ!なあ、話は聞くから」
しかし、永井の手はさらに力がこもったように見えた。
雪乃さんは強く目を瞑っている。普段勝ち気な彼女でさえ相当怯えてるのだ。
「何でだよ!」
永井は引くに引けなくなったのか一向に止める気はない。かといって俺がまともにやり合って敵う感じでもないのが歯がゆかった。
「ママ、オキャクサンガヨンデル」
そんな緊迫した状況を知る訳もなく、サーシャが二階へと上がって来た。
思わず永井も俺もサーシャに視線をやる。
まずい、これ以上他の人間を巻き込めない…
俺は胸が痛くなるほど緊張した。
しかしサーシャは動じずにすっと部屋に入ると、じっと永井を見てまるで動じる様子も無く無表情に立ち止まった。それは実に独特の間で、何だか全員サーシャから目が離せなくなった。
特に白人が無表情だとてんで感情が読めない。まるでマネキンだ。
すると次の瞬間、なぜかサーシャは素早い動きで永井に向かっていった。
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