死刑囚

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『わかった、ちょっと待ってて。住所がわかったら連絡する』 そしてまき子は少し間を空けてから、タクシー呼んであげよっかと言った。 「今日は気が利くな」 『大好きだった先生が一人の男を陥れる為に関係ない人を殺したかもしれないと思うと何だか可哀想でさ…』 そう言われるとかなりヘビーだが、気を使うなんてこいつもいいとこあるな。 「それはタダか?」 『ううん……別料金』 前言撤回だばか野郎。 「ただのオプションかよ」 『でも呼んであげるんだから感謝しなさい』 「ありがとう。じゃあよろしく頼むわ」 するとまき子は即座に電話を切った。 出るのも切るのも早い奴だ。 「おい永井、兄弟に会いたくないか?」 俺は部屋に戻ると場違いな馴れ馴れしさで声をかけた。 永井は困った表情になる。 ってそりゃそうか。 「はあ?兄弟だと?」 「そうだよ!本物の上林先生だ。どうだ?」 「俺が余計な場所に行くか。捕まったらどうすんだよ」 「でもな、先生は強盗殺人について何か知ってるかもしれないんだ。ちょっと興味あるだろ?」 永井の表情が変わった。これは食いついた証だ。 「何でてめえのセンコーが何か知ってるんだ。適当な事抜かしてんじゃねえぞ」 「知ってるよ……」 そこまで言ったが、あんたをハメたかもしれないなんて言えなかった。 「あんたの兄弟は、上林先生はあんたが無茶したお陰で苦しんだんだ」 「だから何だってんだ」 やっぱりこいつは人の心が伝わらない奴だ。それか余程頭が悪い。 「あんたが色々悪さしてニュースで顔が出たせいで、先生の評判まで悪くなって教師辞めたんだ」 「それと俺がハメられたのと何の関係があるんだ?」 大アリだよ。 でも今はまだそれを伝えるべきではないと思った。何せ証拠もないことだし。 「良いから来てくれ。場所が判ればタクシーも呼ぶ。絶対に会うぞ」
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