死刑囚

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7. それから15分ほど経った頃、まき子から連絡があり住所をメモに取った。 偶然にもさっき永井が誤魔化した末原市で合っていた。確実とは言えないが転居した形跡はないという。車だと20分もあれば着ける。 タクシーも直に来るらしい。中々良い感じに段取りは整った。 「よし、準備できたか?もうタクシー来るぞ」 永井は黙ったままじっと手元を見ている。 「おい、聞いてるのか?」 「うるせえ」 「どうしたんだよ」 「もしお前のセンコーに会ったら、俺は殺しちまうかもしれんな」 「何言い出すんだよ」 もしハメられたとなったら本当に永井は殺すだろうな。 俺は先生を庇うが、先生だって因果応報という結果だ。 「でも兄弟に会えると思うと感傷的にならないか?」 「ならねえよ。ただびっくりするだろうがな。世の中に自分とそっくりな奴がいると思ったらお前ならどうする?」 考えたことなかった。ドッペルゲンガーの話もこんな状況ならあり得るって事だな。 「わかんねえよ。でも、それ以上の不思議ってないだろうな」 「俺は吐き気がするよ。そいつはぬくぬく生きてたんだろ?俺は気が付きゃ家族なんかいなかった。こっちは捨てられた側、そいつは残された側。顔も同じで何でそんな目に遭わせられなきゃいけないんだって思うさ、もし俺が残された側なら素晴らしい人生送ったんじゃないかって。考えても仕方ねえけどよ」 もしもなんて世の中でそれほど意味の無い事はないが、つい考えてしまうのが人間だ。例え取り返しがつかなくても、自分の人生以外に興味を持つことは悪い事じゃないと思う。特に、永井の様な場合は。 そしてタクシーが〈ベルナール〉に到着した。 店前の駐車場に停まる車を確認すると、丁寧な対応でお馴染みの鉄恵交通だった。 こういうまき子の中々の気遣いが嬉しかった。 まあ仲介料取られるんたが。 タクシー代はどうしようかな、往復で六、七千円はするよな…… 少し考えた結果、俺は雪乃さんに謝ることにした。今いないから、心の中で。 レジを開けて俺は五千円だけ抜き取り、〈マサキ、五千円〉と書いたメモを入れた。 どうしても金が足りない時は誰がいくら抜いたかを日付と共にメモにしてレジに戻す決まりだ。 来週には戻せるから、こんな時に雪乃さんごめん…… 「何してるの?」 京子に見つかった。冷たく怖い声で話しかけてくる。
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