37人が本棚に入れています
本棚に追加
沈痛な面持ちが晴れぬまま、重い口を開いたのは玄瑞だった。
いつも笑顔の彼にしては珍しく表情は暗く、よく通る美声も今はどこか掠れている。
「近々死ぬみたいですね、私たち」
「そうらしいね。まだまだやりたいこともあったけどどうやら僕には無理そうだ」
相槌を打った稔磨の表情も玄瑞のそれによく似ていた。
お手上げと言わんばかりに両手を上げてみせた。
しかし、ここに余命宣告を受けてなお、諦めを知らない男がただ一人。
「余命宣告が何だっつーんだ! んなモン要は心の持ちようじゃねェか」
語気を荒げて叫んだ晋作は、悲観的になっている二人の友人に対して怒っているようにも見えるし、鼓舞しているようにも見える。
晋作だけは瞳の光を失っていなかった。
「たとえあと数ヶ月の命だとしても本気で成し遂げたいと思っているならそれは自分にとっては十分過ぎる時間になるはずだろ?」
真っ直ぐに見据えて言い放った晋作に二人は一瞬呆気に取られて顔を見合わせる。
稔磨は肩を竦めるとやれやれ首を横に振った。
「……はぁ、馬鹿は楽でいいね」
「なっ、」
「でも今日だけは晋作に同意するよ」
晋作の反論は稔磨にあっさり攫 われる。
続いて玄瑞も微笑った。
「そうですね、私もです」
暗く落ち込んだ雰囲気は先程よりは幾分払拭されている。
晋作は白い歯を見せて笑うと拳を天高く振り上げた。
「三年後、またここで」
それは単なる再会の約束ではない。
あと三年は絶対に生きろという約束が含まれていた。
頷いた二人を満足そうに見やると今度こそ晋作は京の町に背を向けて歩き出す。
玄瑞も稔磨もそんな彼の背中が見えなくなるまで見送っていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!