はじめまして、死神です

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華奢な女と大鎌。 何とも不釣り合いな組合せに晋作は声をかけることすら忘れていた。 彼女が地に伏せていた老爺に鎌を振り下ろすまで――。 ――ザンッ! 音と共に老爺の体から鮮血ではなく、眩いばかりの光の粒が溢れ出た。 晋作は咄嗟に目を覆う。 薄目を開いて女を確認すると光の粒は彼女の翳した手の上に集まっていた。 しばらく幻想的なその光景に目を奪われていた晋作だったが、自分が青い光の、すなわち女の正体を突き止めねばならなかったことを思い出したらしい。 思い切って口を開いた。 「お前、何モンだ? 今何やった?」 (あれっ、こんな時間帯ですし、見つからないと思ったんですが) 手の平に集まっていた光はやがて小さく纏まり、女の手中にすっぽりとおさまった。 彼女は晋作の方に体ごと向き直ると浅く頭を下げる。 (はじめまして、死神です。この老爺の魂をいただいていました) 晋作はそのあまりに非現実的過ぎる発言に目を丸くして硬直した。 いつの間にか晋作の背後に忍び寄っていた玄瑞がひょっこり顔を出す。 「これはまた死神にしては挨拶が随分と軽いですね」 (あぁ、では改めて自己紹介させていただきます。あたしは死神です。下界に降りた時の通り名はシノと申します。好きな食べ物は鯖の味噌煮、嫌いな食べ物は椎茸。趣味は寝ること、特技は、) 「いや、自己紹介きっちりしろって意味じゃねェし」 「これはこれはご丁寧にどうも。私は久坂玄瑞。好き嫌いはありません。出された食べ物は全てありがたくいただきます。趣味は読書、特技は、」 「何お前までがっつり自己紹介してんのおおおおお!」 何 だ コ イ ツ ら。 何 だ こ の 状 況。 シノと名乗った自称死神も玄瑞も深々と礼をしているが晋作は二人の会話に全くついていけずに嘆く。 「うるさい、邪魔」 「……俺の扱いって一体」 いつの間にか隣に来ていた稔磨に押しのけられる始末。 晋作はがっくりと肩を落とした。
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